⑮おわりに ~美による無の創造~ | せとうち観光専門職短期大学|業界最先端の学術と実務を学べる

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観光Web講義


多 昭彦

⑮おわりに ~美による無の創造~

 昨年度の15回は、文化財保護の体系や歴史、文化財の種類ごとの特色等について説明しました。今年度はそれをより実践的にとらえてみたいと思い、文化財を「観る」「歩く」「学ぶ」の観点から考えることにしたつもりですが、途中、自粛やその他様々な事情のために思ったようにいきませんでした。

 そのため、途中から、その時々の状況や個人的な興味に応じて、話があちこちに飛んでしまいました。また、試行として各回で表現の仕方を変えたために、読者の皆様においては混乱が生じたかもしれません。しかしながら、各回において述べたいことは自分の中に明確にあり、今回はそれを復習しつつ、その中で最も言いたかったことを結論として述べ、「おわりに」とさせていただきます。

 まず、それぞれの回で述べたかったことを列挙してみます。(各回のタイトルは省略)

(はじめに)文化財が集中し、それらが適切に整備され、システマティックに観光地化された地域が数多くある。(例として、国宝犬山城とその城下町を紹介)

(第1回)特別史跡平城宮跡は国営公園化で急速に整備が進んだが、個人的には少々寂しい気がする。(整備が行き過ぎではないか。)

(第2回)東京国立博物館の変化に驚き。グローバル化やデジタル化は、これほどまでに人を変えるのか。(SDGs恐るべし。)

(第3回)人生の目的は自由を求めること。(個人の見解で、ど~も、すみません。)

(第4回)文化財、観光施設としての寺院、神社は美の宝庫。美による無の創造が十分に機能している。

(第5回)(第6回)青春18キップはコロナ禍の観光に最適。

(第7回)やっぱり、青春18キップによる旅は乙なものでした。

(第8回)日常からの脱却(束縛からの開放)が新たな発見を生む。

(第9回)これまでの観光バブルはあくまでインバウンド頼み、インバウンドの回復が課題。

(第10回)政府・自治体もポイント付与で、観光振興!

(第11回)SDGsは「持続可能」をキーワードにあらゆる分野における取組が重要。

(第12回)Society5.0は自然科学が中心だが、SDGsと軌を一にし、人文・社会科学も重要。(観光にもつけ入るスキはある。)

(第13回)時代の流れと予期せぬ感染症による文化財の範囲及び保護手法の拡大に期待。

 以上、14回に渡り、熱心に?お読みいただき誠にありがとうございました。最後に、私の文化財と観光に対する考え方を下記のとおり取りまとめます。

【文化財と観光に関する私の結論】

①観光の魅力は、日常からの脱却である。

②ただし、日常からの脱却への前提条件として、日常において「私」を束縛する条件を極力排除しておく必要がある。心配事があると願いは成就しない。

③日常からの脱却への近道は、「美から無を創造する」ことである。

④文化財には、「美」がある。その「美」とは。自然美、造形美、静寂美など様々であり、「無」を創造するためには大変有効なアイテムである。

⑤「美」という文字は、いろいろなものを修飾する。「美しい人」「美しい容姿」などはもちろん、おいしいは「美味しい」と書く。

⑥よって、観光の魅力は、文化財、地域の食べ物、地域における出会い、体験等を「美」として捉え、その「美」により、「無」となり、日常から脱却することにある。

⑦一言で結論づけるとすれば、「観光の真髄は、美から無を創造することである。」と私は結論づける。

⑧蛇足ながら、「無」とは、あらゆる束縛から開放されて無意識になれる瞬間である。人間が無意識になれる瞬間は、最大に幸福な瞬間であり、自らが持ちうる力を最大限に発揮できる瞬間なのである。

 この結論を、今後の観光振興を担う皆様に問うこととしたいと思います。ご批判、ご反論心よりお待ちしております。

 ご清聴(ご愛読)誠にありがとうございました。 それでは「文化財と観光」を終わります。 これにて一件落着!

さようなら。

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