独自の発展を遂げた「島の産業」 素麺製造
小豆島は「うどん県」といわれる香川県にありますが、同じ香川県でも小豆島は「素麺」の産地です。「播州素麺」(兵庫県)、「三輪素麺」(奈良県)、「島原素麺」(長崎県)とともに「小豆島素麺」は日本の素麺四大産地といわれ、2019(令和1)年の時点で小豆島手延素麺協同組合の組合員数は92名、年間の生産量は1,656トン(92,000箱×18キログラム)を数えます。日本における素麺の歴史は古く、927(延長5)年、宮中の儀式や作法を記した『延喜式(えんぎしき)』には、素麺の原型といわれる「索餅」(さくへい)が旧暦7月7日の七夕の儀式にて供えられたと記述しています。全国乾麺協同組合連合会は古来の七夕行事に素麺が関係していたことから、七夕の7月7日を「素麺の日」と制定しイベントなどを行い、素麺の普及を図っています。今回は小豆島における産業のひとつである「素麺製造」の歴史について説明し、小豆島の自然環境と素麺製造がどのように関係しているのかを解説します。
小豆島の手延べ素麺の歴史は、今から400年以上前の1598(慶長3)年まで遡ります。小豆島池田村の農家の一人がお伊勢参りの道中に大和の国の三輪村(現在の奈良県桜井市)で手延べ素麺作りの技術を習い、小豆島に持ち帰ったという話があります。また四大産地のひとつである島原素麺は「1637(寛永14)年、宗教一揆として有名な島原の乱により、ほとんど無人化した島原南部地方の農村を復興すべく、時の城主高力摂津守忠房公は幕府に嘆願して各藩から強制移民の策を取られた。これらの移民の内、たまたま手延素麺の製法を会得した者が居り、雲仙山麓の肥沃な土地に産する良質の小麦と温暖な気象条件に着目して、手延素麺の製造を始めたと伝承される。」(島原手延素麺協同組合ホームページより引用)と記述しており、1642(寛永19)年には小豆島の次男、三男が中心に約30軒の世帯が移住したといわれ、今も小豆島伝来説が残されています。
第1回「島の産業 醤油製造」では醤油の製造方法は和歌山県有田郡湯浅町から小豆島へ伝わったと紹介しましたが、素麺の製造方法は奈良県桜井市(三輪)から小豆島へ伝わり、更に小豆島から長崎(島原)へ伝わりました。関西から小豆島、そして九州への海のルートによる産業の広がりには造船技術や航海技術の発達も欠かせませんでした。
小豆島の素麺製造には以下の特徴があります。
第一の特徴は胡麻油を使用していることです。小豆島素麺の製造工程のなかで熟成した麺帯を丸棒状の麺紐とする際に、胡麻油を塗布しながら採桶に巻き取ります。小豆島手延素麺協同組合のブランド商品「島の光」は胡麻油を塗布する際、同じく小豆島に製造拠点を置く、かどや製油株式会社の胡麻油を使用します。胡麻油を麺に塗布することにより、麺と麺が互いに付着するのを防ぎます。また胡麻油を使用することによって麺の酸化を防ぎ、麺の色や風味が保たれます。素麺と胡麻油の伝統産業が調和し、良質な製品を生み出しています。
第二の特徴は麺を天日で干して乾燥させることです。これまでのエッセイでも説明しましたが、瀬戸内式気候の小豆島は年間の日照時間が2086.6時間と長く、素麺の乾燥に適しています。紐状になった麺を太陽の光と瀬戸内の空気の澄んだ潮風をあて、時間をかけて乾燥させることで麺の表面がきめ細やかになります。天日で干す時間は毎日の気温や湿度から素麺職人が判断し、午前中の約10分間から約2時間で干し、捻じれたように撚りがかかった麺を職人の手で延ばすことで歯ごたえのある食感を生み出しています。素麺職人が長年培った「勘」と「技」が島の伝統産業を支えています。
近年は素麺の商品開発が進み、麺を乾燥させない「生素麺」やオリーブの果肉を生地に練りこみ、オリーブオイルを麺に塗布した「オリーブ素麺」などの新商品が販売されています。夏に食べるイメージの素麺ですが、お湯を注ぐだけで完成する商品「あったか素麺」は素麺の味を1年中楽しむことができます。
小豆島のいくつかの素麺工場では体験型観光を取り入れており、素麺職人が案内する工場見学や製造工程の一つである「箸分け」体験などの「体験型観光」を提供しています。また工場に隣接する食堂で「生素麺」を食べる「食の体験」ができる施設もあります。小豆島の素麺製造工場では瀬戸内国際芸術祭が初めて開催された2010年頃から「箸分け」体験ができる施設が増えました。小豆島には、たとえば恋人の聖地といわれる「エンジェルロード」などのように、「みる」観光のスポットが多くありますが、このように島の伝統的産業を観光対象とする体験型観光によって、多くの魅力が掘り起こされています。
今回紹介した「島の産業 素麺製造」については、小豆島手延素麺協同組合ホームページや全国乾麺協同組合連合会ホームページなどを参照しています。詳細については、それらもご覧ください。