せとうち観光専門職短期大学

観光Web講義


堀田 明美

「観光の懸け橋となるプロトコール(国際儀礼)」の連載にあたって

 今回の観光Web講義「観光の懸け橋となるプロトコール(国際儀礼)」では、「観光の懸け橋となる接遇」・「観光の懸け橋となるもてなし」に続き、「プロトコール(国際儀礼)」をキーワードに綴っていきます。

 「protocol」は、一般的には国家間の儀礼とされます。外務省HPでは「プロトコール」と記され、資料(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/database/pdfs/protocol200902.pdf)には、友田二郎『エチケットとプロトコールー個人礼儀と公式儀礼―』(昭和39(1964)年)からの言葉を引き、「エチケットは、個人間の礼儀作法であるが、プロトコールは、国家間の礼儀作法といえる」とあります。「プロトコール」は、国家間の礼儀作法として、国家間の円滑な外交関係のため、無用の混乱を避け、誰もが納得するルールに従うという意義に則った儀礼と言えます。

 また、現在の外務省HP(https://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/po/page25_001892.html)では、プロトコールの基本として、プロトコールは「国家間の儀礼上のルールであり,外交を推進するための潤滑油。また,国際的・公式な場で主催者側が示すルールを指すこともある」と定義され、公式な社交の場でのルールともされています。その上で外交関係に関するウィーン条約や、領事機関に関する条約などのルールに則り実施されるもので、外交使節・外交官の接受や、我が国の大使、総領事への信任状・解任状・委任状への対応などがあります。また、外交と社交のため、国旗や席次、食事時のテーブルプラン、式典・レセプション・パーティーなどの服装(ドレスコード)、敬称に関する決まり事などが円滑な遂行のために定められています。

 こうした側面だけを見れば、私たちの日常とは距離のあることのように思えます。しかし一方で戦後の航空機・船舶の発達・発展、特に近年はSNSによる通信手段の手軽さで、世界中の人々の距離感は縮まるばかりです。感染症を乗り越えた現在では、国際的な仕事の移動だけでなく、様々な催しへの参加や個人的な楽しみである「観光」による各国間の移動も、以前の水準にほぼ戻っています。それは、世界の新たなあり方、生き方を模索するような移動など、新たな「観光」ともつながっているようです。新しい土地を訪れる時も、感染症という難局を経たからこそのマナーやエチケットの必要性も加わり、訪ねる人々、そこに暮らす人々の双方向からの関係性も見直されているように思えます。

 そうした関係性を踏まえた「国際儀礼(プロトコール)」の研究には、様々な視点があります。国家としての外交の観点はもちろん、国際交流・国際親善・異文化交流などの視座や場もあります。世界がここまで身近となった現在、交流の場に必要な相手への「尊敬」や「尊厳」の視点は、外交・交流そのいづれにおいても必要な、人として最も大切な要素です。

 今回の「プロトコール(国際儀礼)」の連載では、観光の観点から、訪ねる側と受け入れる側という、スイッチ可能な双方の視点を意識したいと思います。そして日常行きかう人々の中での、西洋的なcivility(礼節)や日本的な礼儀作法に関して、国際という言葉を間に置きながら綴っていきます。

 日本は明治以来、国を開き、西洋文化を受け入れ西洋に追いつく途上で、戦争もあり、復興もあり、衣食住を含む様々な変化を経ています。和服が洋服に、日本髪が洋髪に、草履が靴に、和食が洋食に、和食器が洋食器に、和室が洋室に、畳での生活が椅子にと、生活文化の変化の枚挙には(いとま)がありません。 

 しかし同時に、洋のマナーは携えたのでしょうか。現在、和の礼儀作法や稽古事としての嗜みは、日常に存在していると考えてよいのでしょうか。外国の方が日本に来た時に、そこに本物の日本はあるのでしょうか。モダン(利便性や快適性)と伝統の共存という模索、日本ならでは魅力や幸せ感、そうしたあり方も含め、世界と礼節を考えるプロトコール(国際儀礼)十講になればと思います。

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