「プロトコール(国際儀礼)」をひもとくープロトコールの字義
まずはじめに、「プロトコール(国際儀礼)」の字義を英語・日本語の辞書から確認します。
「protocol」は、『研究社新英和大辞典』第6版(平成14(2002)年)によれば、名詞として「1 a 外交上の儀礼[典礼].b 軍隊儀礼.C. (フランスなどの)外務省儀典[典礼]局.2 条約原案 3〖外交〗(会議の結果到達した)暫定協定,議定書,プロトコール. 4 a (条約・協定の)改定(案),修正(条項)b(条約・協定の)付随所.5(ローマ教皇の勅書などの)首尾の定式文,正式前文[結文].6〖電算〗プロトコル⦅ネットワーク上の異なる末端間で通信を行なうため,データの通信の手順などを決めた規約⦆7(米)a〖医学〗治療プログラム,プロトコル.b 実験の計画[記録].8〖哲学・論理〗プロトコール命題⦅経験科学の基礎になる観察命題:protocol statementともいう⦆とあります。
フランスでは、外務省儀典(典礼)局そのものがプロトコールと称されること、外交での議定書一般をプロトコルと呼ぶこと、哲学理論の領域としてプロトコール命題があることなどがわかります。また、同辞典での語源は、ギリシャ語の「protokollon」(プロトコロン)で、「本の見返しの遊びをつけるための接着剤」とあり、「proto」(最初のという意味の連結形)+ギリシャ語「kolla」(glue、にかわや接着剤のこと)だとされます。つまり、書物巻頭のページに付けられた(白い紙)の意味です。
そして、外交儀礼の他に、6コンピューター用語としてのネットワーク上での通信手順や、7医療での治療プログラムとして「プロトコル」の記載がありますが、教室内で意味を質問する限り、現在では6の意味、特にコンピューター用語としてより認識されているようです。また論文のキーワード検索では、6の医療用語としての使用例が圧倒的な数となっています。
また「プロトコール」か「プロトコル」かについては、広辞苑第7版、新明解国語辞典第7版机上版では、見出し語として長音符が入らない「プロトコル」のみが使われており、日本国語大辞典のみ「プロトコル」(プロトコール)という見出し語があります。また訳語に関しては、日本国語大辞典第2版、広辞苑第7版、及び新明解国語辞典第7版机上版では、「プロトコル」の見出し語はあっても、その日本語訳とされる日本語の「国際儀礼」の見出し語はありません。本稿では外務省HP、書物で使われている「プロトコール(国際儀礼)」表記を使用します。
広辞苑第7版(令和2(2020)年)では、「①(条約の)一種。議定書。②外交儀礼。③コンピューター・システムで、データ通信を行うために定められた規約。情報フォーマット・交信手順・誤り検出法などを定める」、また、命題として、論理実証主義の検証基盤となる原紙命題。とあります。ここまで、英語・日本語それぞれの辞書で意味を確認しました。
次回からは、東西の歴史的礼法書・儀礼書、16世紀イタリアで書かれ基本的文献の1つとされる『ガラテーオ』、日本での国際儀礼の受容過程、「はじめに」で引用した友田二郎『エチケットとプロトコールー個人礼儀と公式儀礼ー』、1980年代から2000年代の個人の著書を含む日本でのプロトコール関連の書籍、それらの復刻や近年の考え方など、礼法書を時系列で暖用しながら、現代プロトコールまでの変遷の糸口をひもといていきます。