動物園 ―動物の個を見つめる来園者― | せとうち観光専門職短期大学|業界最先端の学術と実務を学べる

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観光Web講義


平 侑子

動物園 ―動物の個を見つめる来園者―

 動物園は、動物そのものが観光資源となった施設です。現在、わが国には、日本動物園水族館協会(JAZA)に加盟しているものだけでも91の動物園があります。そのうち四国にあるのは、徳島県の「とくしま動物園」、愛媛県の「とべ動物園」、高知県の「わんぱーくこうちアニマルランド」と「のいち動物公園」の4園です。

 動物園には、4つの目的(機能・役割)があるとされています。「種の保存」「教育・環境教育」「調査・研究」そして「レクリエーション」です。市民にとっては専らレクリエーション施設として捉えられがちな動物園ですが、繁殖の促進やそれに伴う生態の研究、市民への啓蒙活動などさまざまな取り組みがなされています。

 さて、「人は一生に3回動物園に行く」という言葉があります。何をもって3回とするかは諸説あり、「①自分が子どものとき、②自分が親になったとき、③自分が祖父母になったとき」という場合もあれば、「①自分が子どものとき、②小学校の遠足で、③自分が親になったとき」という場合もあります。いずれにせよこの言葉から理解できるのは、動物園とは子どもが行くところ、あるいは子どもと行くところという認識が定着しているということです。

 しかし近年、動物園に一人で来園する大人を多く見かけるようになりました。彼らの動物へのまなざしは、子どものそれとは少々異なります。近代動物園とは本来、世界中の動物を体系立てて展示する施設です。展示の仕方は園それぞれですが、例えば「猛獣館」には肉食動物が、「モンキーゾーン」には猿や類人猿が、「アフリカゾーン」にはアフリカに生息する動物が集められたりします。これらを見てまわり、また飼育場に設置してある説明パネルによって情報が補足されることで、来園者は動物や環境に関する知識を身に着け、動物を分類・比較する目を養うことができます。小学校や幼稚園の遠足などで、子どもたちが先生に連れられて動物園中をくまなく見てまわっているおなじみの光景は、それだけでもまさしく教育活動の一環なのです。

 ただ、動物園を特に一人で訪れる大人たちは、必ずしも皆そのような見方をしているわけではありません。近年は、特定の動物のみを目当てに来園する人も増えています。彼らは、動物の種類を見に来るというよりも、動物の個に注目しています。つまり、ホッキョクグマを見る、ニシゴリラを見る、レッサーパンダを見るというよりも、ホッキョクグマのララに会う、ニシゴリラのハオコに会う、レッサーパンダのミンファに会うというような動機で動物園を訪れるのです。毎日のように個体に会いに来り、何時間もその個体だけを観察したり、熱心に目当ての個体の写真を撮ったり、個体が喜ぶ食べ物を差し入れしたり、個に注目しながらいろいろな楽しみ方がなされています。

 このような個に注目する見方は、動物園をめぐるこれまでにない観光行動を誘発します。香川県の隣、徳島県にある「とくしま動物園」の事例を見てみましょう。少し前の話になりますが、2014年、札幌市の「円山動物園」から「とくしま動物園」へホッキョクグマのポロロが移動してきました。ホッキョクグマのポロロは、母親のララや双子の姉妹マルルと共に多くのファンを持つ個体です。「とくしま動物園」での展示初日には、ポロロの徳島でのデビューを見届けにわざわざ札幌から来園した人もいました。その人にとっては、ポロロが移動したら札幌で飼育されている別のホッキョクグマを見ればよいというわけではありません。ポロロが別の地で元気に暮らしているか、どのような環境で暮らすことになるのかを見に、わざわざ他県へ飛行機に乗って訪れるのです。私が訪ねた時は、全国のポロロファンがポロロの好きな玩具や果物を差し入れしたことに対して、その一つ一つを収めた写真とともに園からのお礼が掲示してありました。

 家で飼えない動物を生で見たい、動物や環境問題について学びたいという人は、最寄りの動物園でも充分に楽しめますが、動物の個に着目をすると自ずと全国の動物園へと目が向きます。好きな個体の故郷となる園、個体の移動先の園、個体の親戚が暮らす園、個体のパートナーの出身園など、全国のさまざまな動物園がその個体を基点に特徴づけられます。また、個について興味を持つと、その行動の意味を理解しようとだんだんと種についても理解が深まります。個への興味が種への理解へ、そして近所の動物園から日本中の動物園に対する興味へと世界が広がります。

 今度動物園へ行く際は、是非動物の個にも着目してみてください。

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