どのような「くらし」を取り上げるのか
こんにちは。
これからしばらく、「くらしと観光」というテーマで、観光という現象を人々の「くらし」との関わりから考えてみようと思うので、皆さんにもお付き合い願いたい。
「観光」という言葉に疑義を差し挟む人はあまりいないだろうが、「くらし」という言葉はあまりにも漠然としていて、具体的に何を指しているのか少しわかりにくいだろう。そこで、ここで言う「くらし」の意味を以下の4つにわけて説明しておきたい。
- 観光地において現に営まれ、表出している「くらし」
- 伝統文化や歴史的建造物などに表象される「くらし」
- 観光地における地域住民の日常としての「くらし」
- 観光に携わることで生計を立てていく、という意味での「くらし」
1.と2.は観光者から見た「くらし」であり、この「くらし」が見られる場所はアメリカの社会学者であるE. ゴフマンやD. マキャーネルのいう表舞台(front region)にあたる。表舞台とは、人々が不特定の他者に見られることを前提とし、その場にふさわしい振る舞いをする空間のことだと考えてくれればよい。それに対して、3.と4.は観光地コミュニティにおける地域住民や観光業者自身の「くらし」であり、それが営まれる場所は観光の表舞台にたいして舞台裏(back region/stage)、ということになる。舞台裏は表舞台を降り、くつろいだり、次の準備をしたりする場所である。
もちろん、これだけではまだ抽象的でわかりにくいだろう。なので以下に、それぞれ具体的に何を指しているかを示しておこう。
1.については例えば、「田舎暮らし」や「島暮らし」などが挙げられる。また、パリやニューヨークの街並みや雑踏、釜山のチャガルチ市場や台北の南機場夜市で見られる人々の活動などもここで扱う「くらし」である。つまり、現在そこで営まれている、観光対象となる「くらし」のことだと捉えておいてほしい。
2.については、いわゆる「文化観光」の観光対象=観光資源となる「くらし」である。祭りなどの伝統行事や茶道などの伝統文化、寺社仏閣や産業遺産、古民家などがこれにあたるだろう。また、香川県高松市屋島にある「四国村ミウゼアム」(四国民家博物館)のような、歴史的過去を再構築し、往時の人々の「くらし」を再現するような施設も含まれる。
3.は文字通り、観光地域住民の日常生活のことである。住民自身が「なにもない」と思っていた地域が観光地化すると、それまでの「くらし」は一変するだろう。ゴミや騒音に悩まされるかもしれない。一方で、観光に携わるようになる人や、観光を通して自らのまちを見直し、誇らしく感じるようになり、「これからもくらし続けたい」と思う人も出てくるかもしれない。
4.は観光業者の生活、ということになるだろう。これは1〜3とは異なり、「職業/労働としての観光」を考えることになる。今のところ、「職業」は社会的な分業体制のなかでの地位・役割を、「労働」は実際に行われる活動(仕事)、くらいに考えておこう。
以上が現時点で取り上げてみたいと考えている「くらし」である。次回は、こうした「くらし」を観光と関連させながら、どんなことを考えてみたいかを述べてみたい。