「観光の懸け橋となるもてなし」の連載にあたって
今回の観光Web講義「観光の懸け橋となるもてなし」では、「観光の懸け橋となる接遇」に続き、「もてなし」をキーワードに綴っていきます。
『日本古典対照分類語彙表』による「もてなし(もて為)」の語彙と、その動詞「もてなす」は、最も多く使われている源氏物語に限れば、それぞれ85例、316例とあります。日本国語大辞典からの初出例も、源氏物語、蜻蛉日記等の古典文学から引かれ、「もてなし・もてなす」は、すでに1000年以上前から日本で使われていた言葉であることがわかります。
日本国語大辞典での名詞「もてなし(持成)」の①としてある意味は、「教養・性格などによってかもし出される態度。身のこなし。ものごし。挙動。動作。ふるまい」、動詞「もてなす」の①の意味では「意図的に、ある態度をとってみせる。わが身を処する」です。そうした意味での「もてなし(持成)・もてなす」は、現代の非日常生活の中では、宗教的な祭りや関連のある場での神や仏への畏敬や、そうした場でのふるまい方や身の処し方、生活文化や日常生活の中では、茶事や稽古ごとでの互いの教養や身のこなしという主客双方向の関係の体現、旅先での、ゲスト・ホスト双方向のつながり方や関係性等々、多くの場面で何らかの相手を伴い、自然な相生関係を有していると言えます。
一方世界に目を向けると、平成25年(2013)年9月、ブエノスアイレスでのIOC総会の際、フランス語による東京五輪招致プレゼンテーションで、「お」を冠したo-mo-te-na-shi(お・も・て・な・し)の日本語が使われました。スピーチでのo-mo-te-na-shiの言葉と合掌は、先祖代々から受け継がれ、現代日本の先端文化にしっかり根付いた見返りを求めないホスピタリティ、日本ならではのユニークなウエルカムとして捉えられ、世界に発信されました。そうした発信を経て、オリンピックがコロナ禍における延期・無観客という中で開催されたこと自体、苦渋の中でのもてなしであったとも捉えられます。
その後、令和5(2023)年4月の新型感染症への水際対策撤廃を機に、新たに「日本ならでは」の魅力を求め、多くの訪日客が訪れています。四国新聞によれば、7月19日発表の日本政府観光局・JNTO(正式には独立行政法人国際観光振興機構)の統計では、1月~6月の上半期訪日客の累計は1071万2千人で4年ぶりに1千万人を超え、年間では2千万人を超えるペースとあります。今後、令和7(2025)年には大阪・関西万博、また同年開催となる瀬戸内国際芸術祭など、国や地域での多彩な催しも続き、政府は2025年までに過去最高だった2019年の訪日客3188万人を更新するという目標を掲げています。
諸外国への対応を意識せざるを得ない国を挙げてのサミットやオリンピック開催といった過去の歴史を経て、「もてなし(持成)」は世界への懸け橋となる概念の一つとして、日本の文化資源と捉えられつつあります。「もてなし(持成)」の変遷と方向性を、今回のテーマとして多様な観点から紐解いていきます。