接遇の実践-接遇の5原則「態度」
今回は、接遇の基本5原則「挨拶・表情・身だしなみ・言葉遣い・態度」の最後の項目、「態度」についてです。第4回で示した1980 年代出版の3冊の書籍『人に会うって素晴らしい』(初版・第2版)、『JALスチュワーデスのいきいきマナー講座』で著された内容を基本に、関連文献も交えながら、現代とつながるような形式知へのヒントが見つかればという思いで綴っていきます。
『人に会うって素晴らしい』から見ていきます。「態度」とは、接客にあたる場合の第一印象の決め手となるもので、育ちや物の考え方等を反映するものと言及されます(日本航空客室訓練部編著1982,p.15)。内面的なものと、外面的な動作という2面からの説明です。内面からの3点「思いやりをもって相手の立場に立つ・私的感情を捨てる・明るい態度で接する」、外面的動作としての4点「視線・お客様に正対する・人の前を横切らない・見られているという油断のなさ」(日本航空客室乗員部編著1982, pp.15-19)が示されます。内面的という意味の態度は、第7回での日本語本来の「身だしなみ」の中で、古閑博美が分類の1つとした「心がけ」や心得という、心の準備と考えることができるでしょう。また、外面的な動作という部分では、現在では所作という意味での「振舞い」、もしくは「立ち居振舞い」と言い換えることも可能でしょう。
近年では、先ほど述べたように、「態度」の項目を「立ち居振舞い」という言葉に置き換えているビジネス書・マナーの本も多く見られます。その「立ち居振舞い」の表現も、明治時代の礼法書に「行住坐臥」「立居振舞」が見られ、昭和期『禮法要項』では「起居振舞」、明治以降昭和期までの多くの作法要項での「居常」、現在では送り仮名を「立ち居振る舞い」とするもの、座るという意味の「居」がなく「立ち振舞い」と表されることもあります。また「態度」とあれば、学術研究としての「態度」、つまり哲学的・倫理学的・道徳的・教育学的・心理学的な、態度・態度形成・態度変容等の言葉として考える方もいるでしょう。そうした意味でも、接客マナーにおける「態度」を「立ち居振舞い」とする分類は、わかりやすい置き換えだといえましょう。
『JALスチュワーデスのいきいきマナー講座』では、「態度は目に入る言葉」として、心が外面に表れたものと言及されます。内面的な心構えを「熱意・誠意・創意」とし、創意工夫することで成長と変化の楽しい毎日を過ごせること、また接遇の5項目にのせて「プラスの心理を創り出しプレゼントする」ことで、「何かが変わる」としています(JALコーディネーションサービス編著1989,pp.62-64)。こうした「熱意・誠意・創意」という項目は、2006年経済産業省により発表され「社会人基礎力」の中で示された3つの能力と12の能力要素、「主体性・働きかけ力・創造力」の共通項としても確認できます。現在発展的に継承されている「人生100年時代の社会人基礎力」でも、基本要素として踏襲されている項目群です。社会人として、成長のための「態度」と捉えることもできます。
『JALスチュワーデスのいきいきマナー講座』では、日本航空のスチュワーデスが大切にしている言葉として、「態度」項目の最終章「温かな心のふれあい」の中で、「一期一会」の言葉を紹介しています(JALコーディネーションサービス編著1989,p.68)。筆者入社時、訓練生であった昭和53 (1978) 年には、客室訓練の一環として、茶道の時間がありました。「一期一会」の言葉は、足立大進『禅林句集』( 岩波書店1989年)で、4字の禅語として立項されています。
筒井紘一『現代語でさらりと読む 茶の古典 茶湯一会集ちゃのゆいちえしゅう』(淡交社2017年)序文では、「そもそも、茶湯の交会は、一期一会といいて、たとえば幾度おなじ主客交会するとも、今日の会にふたたびかえらざる事を思えば、実に我が一世一度の会なり」という井伊直弼の言葉を引き、それに続く筒井による現代語訳の解説では、そうした交会のため「主客とも決していい加減な考えで茶事を催してはいけません」(筒井2017, p.13)と述べられます。千坂秀学『いっぷく拝見 禅のことば・茶のこころ』(淡交社1989年)では、「一期一会とは,単に人と人との出会いだけでなく、時間との出会いであり、物との出会いであり、さらに尊いことは、自分との出会いということが大事なことなのです。」(千坂1989,pp.52-53 )とあります。邂逅において「本当の自己をみつめる」こととして、禅と茶道の関係や心の在り方が示されています。
機内における「一期一会」を考える時、それは、旅客サービスとしての飲み物や食事提供等の日常と、地上を離れた飛行機という特殊な場面での安全・安心を常に考えながらの非日常とが混在した「一期一会」であったともいえます。 筆者の記憶ですが、当時は「機内サービス」という言葉に仕事が凝縮されていました。一人一人の乗客に真摯な態度で対応し、まさに今ここ、このフライトで何ができるかというサービスの実践、あらゆる善処、またその延長として「NOといわない態度」が重視されていたように思います。乗客との様々な邂逅に際し、大袈裟かもしれませんが、 限られた時間・場所・機内搭載品 の中で、今ここへの意識の集中が必要でした。さらに何より安全を念頭に「好日」を願い、無事と安全への祈りを乗せた毎回のフライトの日々を思い起こします。
最後に、学生としての日常の「態度」を考えてみましょう。大学では、主に初年次・1年次教育として、大学生としての成長過程に対応した「学修」や「態度」への意識が示されます。小原芳明監修玉川大学コア・FYE教育センター編『大学生活ナビ』 (玉川大学出版部2006年初版) では、「指示待ちの生活態度にさよならを」として、外的刺激により意識なく受動的になっている現代の生活様式や、高校までの指示に応答する授業の受け方からの転換を指摘しています。それらを「逆転」し、将来なりたい自分を目指して大学生活を送ってほしいとあります(小原監修2006,p.14)。また大幅に改定された2015年出版同書第2版では、多くの大学での成績評価GPA評価導入に関し「あなたの学業に対する態度を測ろうとする表れ」と説明し、「態度」という言葉が使われれています(小原監修2015, p.91)学業への態度として、4年間の力の注ぎ方を客観的に示すものとする説明です。継続した日常の積み重ねが頑張る姿を表す、というひとつの評価基準であることがわかります。
学生生活、社会生活、感染症の中での日常生活、今後の観光への展望と志向、多くの場面で多くの態度の表明が必要です。そうした日常からの態度は、自らの素直さと、他の人とつながるための真摯な「恭敬和親」という心のよりどころと共にありたいと願います。