独自に発展を遂げた「島の産業と文化」
これまでのエッセイ「瀬戸内海の魅力」の連載は、私の故郷である瀬戸内小豆島の誇れる魅力として、独自に発展を遂げた「産業」と「文化」が「観光」と、どのように関係しているのかを解説してきました。今回は、次回以降の新たな連載につなげるため、これまでの内容について、一旦まとめておきたいと思います。
瀬戸内小豆島の「産業」と「文化」には、長い年月をかけて発展を遂げた歴史があります。島の産業である醤油は約420年前の文禄年間(1592年から1595年)に、現在につながる製法が小豆島に持ち込まれ、製造に適した瀬戸内式気候や海運業の隆盛を背景に発展し、今も島内に22社の醤油会社があります。また、小豆島素麺は1598(慶長3)年に始まり、「播州素麺」(兵庫県)、「三輪素麺」(奈良県)、「島原素麺」(長崎県)とともに日本の素麺四大産地にまで成長しました。そして、島の文化である小豆島霊場は約1200年前に若き弘法大師空海が生国である讃岐と京都や高野山を往来する途中、小豆島に立ち寄り、修行を通して現在の小豆島八十八ヶ所霊場の礎を築きました。
時を経て、1955(昭和30)年頃からの高度経済成長期において、国内の人口増加や交通機関の発達により、小豆島は観光先進地としての地位を固めました。なかでも、1972(昭和47)年に新幹線が岡山まで開通したことは、東京や名古屋など都市部から小豆島を訪れる観光客が増加する大きな要因となり、その頃に島内には多くの宿泊施設や観光施設が開業しました。
ところが、1990年代(平成)になると、バブル崩壊や海外旅行人気などの影響を受け、小豆島を訪れる観光客は減少し、島内の宿泊施設や観光施設は厳しい経営状況を強いられるようになりました。日本経済の「失われた20年間」は小豆島の観光にも大きな影を落としました。
しかし、2010(平成22)年から始まった、3年に1度開催されるアートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」をきっかけに、地元の「産業」や「文化」を見直す動きが広まりました。小豆島の観光客を受け入れる現場でも、観光客に対して地元の特色を生かした体験プログラムを提供するようになりました。例えば、素麺工場では製造工程のひとつである「箸分け体験」や、霊場では小豆島の特産品であるオリーブに着目して、オリーブの剪定木を使った「念珠作り体験教室」を開催し、観光で訪れた女性を中心に人気を集めています。
このように、体験型観光は旅に付加価値を与え、観光客の満足度を高めることにつながっています。今後さらに地域の活性化を進めるためには、体験型観光の例のように「産業」や「文化」が「観光」と結びつき、観光客に対して多様な付加価値を提供することが、重要といえます。
次回からは「瀬戸内の魅力」として、小豆島の「自然」、「観光」、「人」などについてご紹介します。