せとうち観光専門職短期大学 せとうち観光専門職短期大学

観光Web講義


石床 渉

独自の発展を遂げた「島の自然」 宝生院の真柏 ②

 前回(第12回)の観光Web講義では、小豆島霊場第54番札所宝生院の境内で、聳えるように成長した真柏(シンパク)にスポットをあて、巨樹として祀られるまでの経緯や小豆島霊場における、近年の巡拝者数の動向について統計などをもとに解説しました。今回(第13回)は、霊場の魅力を訪れた人たちに伝え、賑わいを取り戻すための新たな取り組みや、地域の人たちによる真柏の保護・保全活動について解説します。

 まず小豆島霊場第54番札所宝生院と真柏の来由についてみていきます。

 小豆島霊場は江戸初期に確立しました。その後、信仰を目的とする社寺参詣の旅である巡拝は全国へ広まり、小豆島へも多くの巡拝者が訪れるようになりました。途中、明治期には政府による神仏分離令の発令により、霊場存続が危ぶまれる時期を経験しながらも、1913(大正2)年には巡拝者の増加を目的とした小豆島霊場会が設立されました。また、小豆島霊場宝生院の境内にある真柏は、1922(大正11)年、国の天然記念物、1955(昭和30)年には国の特別天然記念物に指定され、人びとは宝生院と真柏を地域の象徴として大切に守ってきました。しかし、近年は巡拝者の高齢化や若い世代の宗教離れなどにより、巡拝者数の減少や住職の後継者不足などの問題が深刻となっており、宝生院もその例外ではありませんでした。

 このような厳しい状況の中、2014(平成26)年、地元小豆島出身の高橋寿明御住職が、当時31歳の若さで宝生院に入山されました。高橋寿明御住職は檀家と協力し、境内の参道整備や老朽化した諸堂の合祀を行うなど、現在も宝生院の再生に尽力されています。

 前回(第12回)の観光Web講義では宿泊統計をもとに説明しましたが、小豆島霊場全体の巡拝者数は数字からも年々減少していることが分かります。しかし、宝生院では地元の特産品を生かした体験教室をとおして、訪れる人に霊場を身近に感じてもらい、霊場の賑わいを取り戻そうと努めています。

 その中でも小豆島の特産品であるオリーブに着目し、剪定木を利用した「オリーブの念珠(数珠)作り体験教室」と、袋物の中にお香と訶子の実が入った「訶梨勒(かりろく)作り体験教室」は、2017(平成29)年10月から12月に開催された「四国ディスティネーションキャンペーン」の観光素材集に掲載されるなど広く紹介されました。そして、体験教室はオリジナリティ溢れる物作りの楽しさと、完成品の高い実用性から、女性を中心に人気を集めており、文化の商品化が成功した例と言えるでしょう。また、真柏の太い幹からは、浮き立つような「龍」、「象」、「亀」の仏教に纏わる聖獣の形を見ることができるため、近年はパワースポット巡りを目的とした若い観光客も訪れるようになりました。宝生院から2キロメートルの近い場所に、同じくパワースポットして人気の「天使の散歩道 エンジェルロード」があることも、若い観光客が増加した理由と考えられます。

 このようにして巡拝者に加え、観光客も訪れるようになった宝生院において、真柏の保護・保全活動が本格的に始まったのです。

 2015(平成27)年10月、「第22回 全国巨樹・巨木林の会総会」と「第28回 巨木を語ろう全国フォーラム」が小豆島で開催され、樹木に関する有識者や巨樹愛好家らが宝生院の真柏を視察しました。そして、同会の開催をきっかけに真柏の状態を調査した結果、①人が歩くことによる根の損傷を防ぐ対策 ②踏み固められた土壌を柔軟にするための対策 ③木の栄養補給のための保水力回復と通気性の確保 ④根を腐敗させないための土壌の通気性確保、などが急務であると指摘されました。これらの点は真柏の鑑賞に訪れる人が増加したことや、小豆島が少雨で乾燥した瀬戸内式気候であるから故の結果と言えます。そして、調査結果をもとに、宝生院は地元有志によって設立された「宝生院のシンパク保存会」や国、県、町とともに、根の保護や土壌を改良するため、見学者用の木製歩道を設置したり、土に有機肥料を施したりして、現在も真柏の保護・保全活動を継続して行っています。

 このように、自然の巨樹(真柏)と文化である霊場(宝生院)が同居するように密接に結びついている複合的スポットは、とても魅力ある観光資源です。そして、観光立島小豆島において、巡拝者や観光客の増加は経済波及効果をもたらし、地域の経済発展においてとても重要なことと言えます。しかし、過剰な集客への注力は人が自然に対して大きな重圧を与えることとなり、その結果として貴重な資源を喪失する恐れがあります。これからも巡拝や観光による地域経済の発展とともに、小豆島を愛する人たちの手で自然環境の保護・保全が継続され、宝生院の真柏をはじめとする島の誇るべき自然と文化が持続可能なものとして、未来に受け継がれることを願います。

(調査協力:高野山真言宗 小豆島霊場第54番札所 皇踏山 吉祥寺 宝生院 高橋寿明御住職)

宝生院の真柏と木製歩道
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