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観光Web講義


石床 渉

独自の発展を遂げた「島の自然」 宝生院の真柏 ①

 前回(第11回)の観光Web講義では「島の自然」と題し、小豆島の人気観光スポットである、エンジェルロードが観光地として確立した理由や、砂の道が形成される要因などについて解説しました。今回(第12回)は小豆島霊場第54番札所「宝生院」の境内にある「真柏(シンパク)」を題材として、巨樹となるまでの経緯や、霊場の魅力を訪れた人に伝える取り組みなどを、2回に分けて解説します。

 6回目の観光Web講義「島の文化 小豆島霊場」でも説明しましたが、まず小豆島霊場の成り立ちと特色についてみていきます。

 真言宗の開祖である弘法大師空海は、生国の讃岐から京の都への道中、あるいは全国を遍歴するなかで小豆島を訪れ、山野や海浜を巡りながら修行を行ったと言われています。そして小豆島霊場会では、その頃にあたる814(弘仁5)年を教義上の霊場創始と見なしており、現在は島内に29の寺院、51の堂庵、13の山岳霊場、総本院、番外を含めた94の札所があります。四国霊場の全行程が約1,450キロメートルあるのに対し、小豆島霊場は全行程が約150キロメートルです。距離からみても分かるように、小豆島霊場は四国霊場の約1/10というコンパクトな行程と言えます。また小豆島霊場の全行程を徒歩で巡拝する場合は約7日、自動車を利用した場合は約4日で結願できます。

 小豆島霊場は起伏に富みながらも行程が短いことから、多くの時間を要すことなく、手軽に巡拝できます。近年は小豆島内の道路や、各札所の駐車場が整備されたことなどから、レンタカーやタクシーを利用し、短期間で巡拝する人を見かけるようになりました。

 では小豆島霊場のひとつである、第54番札所宝生院の境内にて、聳えるような巨樹に成長した真柏の大きさや木属性について説明します。

 宝生院の真柏は、樹高20メートル、幹周21.3メートル、地上約1メートルのところで三方の支幹に分かれ、東西24メートル、南北23メートルと大きく枝をのばしています。また大正期の中頃、林学者で「日本の公園の父」と言われた本多静六氏の調査研究では、樹齢約1,500年以上と推定されており、幹や枝は自然のなかで風化した茶褐色や白色を見せ、古色蒼然とした趣を出しています。

 次に真柏の木属性について説明します。真柏はヒノキ科ビャクシン属の常緑針葉高木となる松柏類で、日当たりの良い乾燥した砂地に自生する伊吹(イブキ)の仲間です。松柏類とは日本人に馴染みのある松類と、真柏などの柏類を含めたものを指します。松柏(ショウハク)の言葉の意味である「節を守って変えないことのたとえ」からも分かるように、松と柏は葉の色が一年中変化しない常緑樹です。そして小豆島の社寺などの松や柏は、古くから神仏の依り代として崇拝され、宝生院の真柏も島民に長く親しまれてきました。

 このように島民の崇拝の象徴であり、鍾愛されてきた宝生院の真柏には、今も伝説が残されています。

 日本書紀(720年編纂)には、応神天皇は即位22年9月に阿波施辞摩(淡路島)や阿豆枳辞摩(小豆島)に立ち寄ったと記されています。日本書紀のなかに、その他の具体的な記述はありませんが、応神天皇は阿豆枳辞摩(小豆島)を行幸されるなかで、景勝地である宝生院近くに宿泊し、そこに真柏の木をお手植えされたと伝えられています。また真柏の捻じれた太い幹は、仏教に纏わる伝説の生き物である「龍」のほか、「象」や「亀」といった動物の形を見ることができ、応神天皇お手植えの伝説とともに、訪れる人に畏敬の念を抱かせています。

 しかし神秘的な魅力で、人々を引き付けてきた宝生院の真柏ですが、小豆島霊場全体の巡拝者数は減少の一途を辿っています。

 一般社団法人小豆島観光協会が毎年行う、小豆島内の宿泊施設(60施設)を対象とした宿泊調査によれば、巡拝を目的とした延べ宿泊者数が、2014(平成26)年においては14,193人となっていますが、5年後の2019(令和元)年には6,740人と半減しています。また新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた昨年2020(令和2)年は1,403人と6年間で約1/10にまで落ち込んでいます。このように急激な減少がみられる理由として、巡拝者の高齢化と若い世代の「霊場離れ」があると考えられます。

 そしてこれらの問題を解決するには、従来の慣例に捉われない、視点を変えた巡拝者増加への対策を講じる必要があります。次回は宝生院の真柏などの「霊場の魅力」を、訪れた人たちに伝えるための新たな取り組みや、その取り組みが観光とどのように結びついているのかを説明したいと思います。

(参考:一般社団法人小豆島観光協会 2020年小豆島各港別乗降客等調査表)

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