せとうち観光専門職短期大学 せとうち観光専門職短期大学

観光Web講義


石床 渉

独自の発展を遂げた「島の自然」 天使の散歩道 エンジェルロード

 前回(第10回)の観光Web講義では「島の自然」と題し、小豆島の北部にある、屋形崎夕陽の丘にスポットをあて、景観の再生に向けた活動が観光に与えた影響や活動から派生した地域の活性化についてみてきました。今回(第11回)は小豆島の観光スポットである、天使の散歩道 エンジェルロード(以下「エンジェルロード」という)について、日常の自然現象と景観がどのようにして観光客から人気を集めたのかを解説します。

 まずエンジェルロードの場所について説明します。

 エンジェルロードは、小豆島の玄関口である土庄港から車で約5分の銀波浦地区にあります。また土庄港からエンジェルロードのある銀波浦地区までの道のりは平坦で、レンタサイクルを利用した場合には約20分で到着します。銀波浦地区はエンジェルロードのほか、沖合の余島3島からなる穏やかな入江を望むことができ、このような好ロケーションであることから、多くのホテルや旅館が営業する、宿泊産業の中心地となっています。

 このようにエンジェルロードは港からのアクセスが良く、宿泊施設から徒歩圏内ということもあり、観光客にとって便利で身近な観光スポットとして人気を集めています。

 次にエンジェルロードが形成される要因について説明します。

 エンジェルロードとは、普段は海によって隔てられている陸地側の小豆島と沖合の島である余島3島が、干潮時に干上がった海底でつながる「陸繋砂州(イタリア語:トンボロ)」によって現れる、約500メートルの砂の道のことを言います。自然の潮流や風の影響により、小石や砂が堆積してできる砂州は、満潮時には海底に沈んだ状態ですが、1日1回もしくは2回の干潮時には海面上に浮かび上がり、幻想的な様子を見ることができます。また余島3島は陸繋砂州によって陸地と繋がるため「陸繋島」となります。

 小豆島は満潮時と干潮時の潮位差が最大約2メートルと比較的に大きいことも、エンジェルロードが形成される要因と考えられます。

 陸繋島である余島3島は沖から大余島、小余島、中余島の順に形成しています。このうち小余島と中余島は無人島ですが、大余島は戦後から青少年育成の島として活用されてきました。

 1950(昭和25)年、神戸YMCAは「戦後における民主主義教育の実現」という使命を果たすため、周囲2.2キロメートル、敷地面積約3万坪の大余島にて教育キャンプを開始します。その後も神戸YMCAは1952(昭和27)年から「日米交換学生キャンプ」、また1953年(昭和28)年から「肢体不自由児キャンプ」を実施するなど、今日に至るまで青少年育成を基軸とした、社会福祉活動や国際交流を展開し、日本における野外活動をとおした民主主義教育の先駆的な役割を果たしています。

 ではエンジェルロードに戻り、観光地として確立した理由について説明します。

 まず一つ目の理由は、僅かな時間に道が現れるという、限定的なことにあると考えられます。エンジェルロードを見ることができるのは、1日のうち干潮時間の前後約2時間だけです。自然現象によって、日々干潮時間が変わり、「今だけ」の限られた時間内に訪れなければ見ることができない必見の価値を、エンジェルロードは生み出しています。

 二つ目の理由は、エンジェルロードの持つ物語、つまりストーリー性にあると考えられます。話は戦国時代にさかのぼります。1587(天正15)年、キリシタン大名の高山右近は豊臣秀吉が発した「伴天連追放令(バテレンついほうれい)」を拒否し、小豆島に逃れます。そして高山右近に仕えるために来ていた、セミナリオの神学生の若者と小豆島の隠れキリシタンの娘との恋物語が、時を経て「大切な人と手をつないで砂の道を渡ると幸せになれる」という言い伝えとなりました。そして砂の道は、いつしか「エンジェルロード」と呼ばれるようになり、今や恋人の聖地としてカップルに人気の観光スポットとなっています。

 三つ目の理由は、ハードとソフトの充実です。近年になりエンジェルロードの入口には観光案内所のほか、大型バスも駐車できるスペースや多目的トイレが設けられました。観光客のストレスフリーを目指したソフトとハードの両面の整備により、エンジェルロードの利便性は向上しつつあると言えます。

 万人が満足する総花的な風景は当たり前であり、いつしか訪れる人の好奇心は薄れます。しかし風景においてもストーリー性があり、また「今だけ」というような制限がつくほど、訪れた人は優越感に浸り、刻々と変化する自然の美しさから感動が生まれ、そして満足度は高まるのだと考えられます。

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、これからの観光は地域の魅力の再発見と地域経済への貢献を念頭に置いた形態が主流となると考えられます。「ここだけ」にしかない、地域資源の掘り起こしが、観光の「質」を向上させ、地域振興につながると言えるでしょう。

(参考:小豆島講座)

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