「しごと」を観光する | せとうち観光専門職短期大学|業界最先端の学術と実務を学べる

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観光Web講義


田保 顕

「しごと」を観光する

2023年11月24日の金曜日、香川県東かがわ市・さぬき市・三木町の3市町を会場とする「オープンファクトリー CRASSO(クラッソ)2023」を訪ねてみた。これは香川県東部地域にある工場や工房などの「ものづくりの現場」が開放され、普段なら見ることもできないものづくりの作業を見学、または体験できる、というイベントである。開催期間は23日木曜日から25日土曜日の3日間で、日によって参加する事業所数が異なっていた。24日の金曜日に参加事業所数が最も多かったので、この日に訪れることにしたのである。

25のものづくり企業と12の飲食店が参加しており、観光者はそれぞれの好みに従って訪問することができる。とはいえ、事業所は広範囲に点在しており、どこを訪ねるか悩ましいので、まずはメイン会場・総合案内所となっている「ベッセルおおち」に行ってオススメを尋ねることにした。受付の方が間髪いれず、バイク用グローブ製造の「GENIUS」(敬称略、以下同じ)を勧められた。メイン会場から近いということと、東かがわが「手袋のまち」であることがその理由であった。まずはそこへ行こうと心に決めながら、同会場で「つくり手の想いに触れる旅」と題する展示会を見に行った。

展示会では布・糸、木、土、紙、金属、石、ガラス、革といった素材を使用した品を、四国4県の事業所が出店していた。その多くが日用品なのであるが、どれもついため息がもれてしまうほどの出来で、その技術の高さに関心させられた。個人的に気に入ったのは高知県の「エコアス馬路村」の「monacca」という、高知県産杉を使用したカバンであった。カバンは布製であるという思い込みを払拭してくれた点、お菓子のもなかに似ているからであろうところから名付けられた商品名がユーモラスであった点がその理由である。もちろん、その出来も素晴らしいものであった。それらの製品をひとつひとつ丹念に撮影している人もいて、なるほど、そういう楽しみ方もあるのか、と思った。

「GENIUS」へは自家用車で向かった。「CRASSO号」と呼ばれるオンデマンドの無料交通手段が用意されていたものの、出発の30分前に連絡が必要とのことで、試すのを諦めた。 「GENIUS」は店舗入口を入った右手に工房があり、そこで行われている作業が「丸見え」であった。このイベントに関係なく普段から「しごと」が見られるのである。大将がうどんを打つ様子をガラス越しに見られるうどん屋をいくつか思い出した。大将の手付きを飽かず見つめる子どもを今でも見かけることがある。人には他人の手作業を面白がる習性があるのかもしれない。そして、それがこうしたいわゆる「産業観光」を成立させる土台となっているのかもしれない。

「GENIUS」では革のブレスレット作成を体験することができた。縦に2本切れ目の入った革生地を三つ編みにし、最後に留め金具を取り付ける。これまで三つ編みなどしたこともなかった上に不器用さも手伝って作業は難航したが、それでもお店の方に手伝ってもらってどうにか完成させた。「しごと」体験ができるのも今回のイベントの目玉であろう。

「タナカ印刷」へも伺った。大きな印刷機でポスターの色合いやブレの細かい調整をする様子や、紙折機で三つ折りにする様子などを見せていただいた。断裁機で大量の紙を断裁する体験もあった。複数の紙が冊子になっていく様子など、製品がどんどんできあがっていくのを見るだけでも面白かった。

「しごと」というのは「くらし」の中でも日常も日常、「ハレとケ」でいうことろの「ケ」の急先鋒である。それが部外者の目には、「非日常」で魅力的なものにうつる。人の最大の関心対象は究極的には人であるのだろう。

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