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2021年5月1日公開

【こんぴら詣での今昔:第3回】『金毘羅参詣海陸記』にみる大坂からのこんぴら詣で

【こんぴら詣での今昔:第3回】『金毘羅参詣海陸記』にみる大坂からのこんぴら詣で

谷崎 友紀

 
 
 前回は、こんぴら詣での流行について取り上げました。今回は、こんぴら詣でが流行したことで出版された案内記のひとつである『金毘羅参詣海陸記』という資料を紹介したいと思います。

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 『金毘羅参詣海陸記』が出版されたのは、安永7(1778)年です。旅が盛んとなった江戸時代には、さまざまな案内記(現在でいうガイドブック)が出版されており、そのなかにはこんぴら詣でに関するものもあります。この『金毘羅参詣海陸記』は、こんぴら詣でを取り上げた案内記のなかで、最も古いものだとされています。第2回に取り上げた「金毘羅祭礼図屏風」は元禄年間(1641-1717)のものだったので、それよりも約40~60年ほど新しいものとなります。

 『金毘羅参詣海陸記』は、縦15.3㎝、横8.8㎝の折り本仕立てで作られています。小型であり、作者も巻末で「金毘羅参詣の人、この書を持って往来する時は旅中の小補ともならんかし」と記していることから、実際にこんぴら詣でをおこなう人が旅に出た際に携帯することを想定していたものと考えられます。作者は今村美景、版元には大坂の書林である「吉文字屋市兵衛」と「柏原屋与左衛門」の名があります。

 では、もう少し詳しく中身をみていきたいと思います。この案内記は、大坂から始まります。こんぴらへの参詣船の乗り場が示され(大川丁船宿)、船賃は乗船人数によって決められていたことが記されています。6人で乗ると一人16匁、9~10人で乗ると13匁になりました。図は、大坂の安治川河口から始まり、尼崎、西宮、須磨といった沿岸部の地名や、周辺の名所が示されています(図1)。江戸時代には『平家物語』が流行し、とくに関連する名所旧跡の多い須磨には、多くの旅人たちが立ち寄りました。その名所旧跡の一部である、一の谷や平敦盛の石塔もちゃんと図中に確認することができます。

 須磨を過ぎると明石城の姿が見え、その向かいには淡路島の北端が描かれています。現在は明石海峡大橋が架かっているところです。『金毘羅参詣海陸記』では、そのまま瀬戸内海を西へと進み、姫路、赤穂を過ぎ、家島諸島を通過したところで、南に小豆島が見えてきます(図2)。

 そこからさらに西へ行くと、児島(備前国)の南西には屋島や高松城が描かれています。実際の地理的な位置とは若干ずれがみられますが、横長の本にこんぴらさんまでの経路を描きこまなければならないため、このような形となったのだと思われます。同様に、宇多津の西からも、現実の地形とは異なり、海岸線が大きく婉曲し、そこに丸亀港と城下町が描かれています(図3)。ここからは陸路となり、道中の名所をめぐりながらこんぴらさんを目指すような構成になります。こんぴらさんへの道(経路)としては、多度津から善通寺の西を通過してこんぴらさんへ向かう多度津街道、丸亀からこんぴらさんの門前町へ合流する丸亀街道が中心に描かれており、高松街道は名前だけがみられます。

 多度津街道の上部(方向としては西)には、道隆寺、弥谷寺、曼荼羅寺、出釈迦寺、甲山寺、善通寺、和光寺、大麻神社といった寺社が描きこまれており、丸亀街道のほうにも吉田社や八幡社といった神社のほかに、田村池や「コンヒラヘ五十丁」といった道標があることが示されています。これらは、名所や見所としての意味合いと、道しるべとしてのランドマークであったと捉えることができます。

 こんぴらさんの門前町まで到達すると、金倉川に架かる鞘橋と、その先に続く参道、そしてこんぴらさんの境内の様子が描かれています(図4)。図の左側にあるのは、金毘羅大権現の由来と、門前町や境内の周辺の様子、堂塔の説明です。そして最後には、高松へ船を着けさせた場合の陸路を使ったこんぴらさんへの参詣路が紹介されています。

 このように、最後に高松からの参詣路についての記述があるものの、この案内記では大坂からこんぴらさんへ向かうのに、丸亀まで船を利用してそこから徒歩という方法が採られていました。こんぴら詣での流行には丸亀の商人たちと大坂の船宿が深く関わっていたので、このような形になっているのだと考えられます。ただ、『金毘羅参詣海陸記』は小型の案内記だということもあり、大坂からの海路について文字情報はほとんどありません。これではこんぴら詣での様子がよくわかったとは言い難いため、次回も引き続きこんぴら詣でを扱った案内記をみてみたいと思います。

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