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2023年12月7日公開

【観光の懸け橋となるプロトコール(国際儀礼):第3回】西洋での古代から中世の礼儀とレディ−ファースト

【観光の懸け橋となるプロトコール(国際儀礼):第3回】西洋での古代から中世の礼儀とレディ−ファースト

堀田 明美

 
 
 今回は、西洋の礼儀に関して、主に春山行夫『エチケットの文化史(春山行夫の博物誌Ⅱ)』(平成5(1993)年)を暖用し、文化史の観点から綴っていきます。春山は、今につながるエレガントな礼儀作法や風俗習慣(今日の言葉でいえばエチケット)を、古代エジプトの儀礼まで遡り論じています。

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 古代エジプトの章では、まず「パーティー」の項目が挙げられます。古代エジプトで社交の始まりといえるのは、個人の家で行われた宴会だったとされ、客人は自宅を出る前に体に香油をぬり、宴席(食事)前に手や足を洗ったあと、召使いたちが客人の頭に香油を注いだり、歓待のためのスイレンの花飾りを客の頭や首や胸に付けたりしていたとあります。現代風に意訳すれば、パーティーに呼ばれたので、香水をふりかけて出かけ、招待された家でまず手洗いを済ませ、その後主催者側から歓迎の花飾りなどを頂戴した、という程のことでしょうか。紀元前3000頃統一国家が形成されたとされるエジプトでは、すでに接遇での衛生・お洒落・歓待などの実践が窺えます。

 旧約聖書の創世記では、アダムとイブの物語として「イチジクの葉」で体を隠したことが、人類最初の身だしなみだとされたこと、人と話す時の共通の話題やエレガントな会話のために、聖書の民の婦人たちが暗記し引用したのがソロモン王の「箴言」だったこと、などが綴られています。旧約聖書「出エジプト記」または「申命記」の「十戒」では、1から4までは神と人、5から10までは人と人とが守るべき十の戒律が示されます。これらは東洋の『礼記』が社会を支えていた精神支柱であったように、人としての基本的精神や行いという基本心得とも捉えられます。

 西洋史では、一般的に4世紀末頃から文芸復興(ルネサンス14~16世紀)までを中世としますが、大陸で地続きのヨーロッパ内では、古代から近隣地域間の侵略による戦いが絶えず、国土が定まらない時代が続いていました。中世の時代には、キリスト教の聖地奪還の目的で十字軍の遠征が始まりました。遠征は、11世紀末から13世紀までの約200年で7回続いたとされますが、長い年月の争いでイスラムとの領地争いとなり、さまざまな国・地域・階級の戦士たちが、中東やエジプトに派遣されました。十字軍から帰還する戦士たちは、東方・アフリカ遠征遍歴の間に騎士的な儀礼を身につけ、ラテン語やフランス語での伝達を通し、異国の文化や習慣を取り入れていきました。同時に、外国との関わりで培われた外交術も蓄積されました。このように、エチケットの形成は、同時期に盛期を迎えた騎士道の影響を受け整ったとされます。春山によれば、騎士道により儀礼も洗練され、また共に存在した吟遊詩人たちにより、騎士としての美徳も伝えられていったとあります。

 中世封建社会の崩壊と絶対王政時代の後、西ヨーロッパはルネサンスを迎えます。印刷・羅針盤・火薬の技術というルネサンス三大発明がなされ、各国の歴史的背景の中で外交や礼儀も発展していきます。礼儀作法の継承や発展において、印刷技術の発明は大きな意味を持ち、16世紀に著され、次講で取り挙げる『ガラテーオ』などの礼儀作法書の印刷・出版の時代も拓かれます。またそれらが、フランス語・スペイン語・ドイツ語・英語などの各国語に翻訳されたことで、異国の礼儀作法が外国に流布していくこととなりました。異文化への理解や比較もなされ、礼儀作法書が後世のプロトコールの概念につながる要素にもなったと考えられます。

 そうした変遷を経て、ヨーロッパでエチケット全盛期とされるのは、17世紀のフランス宮廷ルイ14世の頃(在位1643-1715)で、ベルサイユ宮殿(1682年建立)での貴族の振舞い、いわゆる宮廷作法が対象となりました。フランスではこのような歴史的背景もあり、「プロトコール」の言葉は、現在もそのまま外務省儀典(典礼)局の意味を有しています。

 中世から18世紀に至るエチケットや礼儀作法の変遷に関して、ノルベルト・エリアス『文明化の過程(上)』によれば、「礼儀」の概念は、ヨーロッパ社会の「文明化」を特徴づける「具体化」だとされます。その後、貴族社会の崩壊と18世紀の産業革命による市民の台頭により、大きな社会変化が生まれます。一方、スペイン・ポルトガルでは、15世紀半中頃から17世紀中頃にかけて、世界的なキリスト教の布教時代でもある大航海時代を迎えます。

 さて、前講義では中国の儀礼書や、『易経』が典拠とされる「観光」について、また今回の講義では、エジプトとヨーロッパにおける礼儀とその変遷を大きく概観をしました。最後に、エチケットに関わる東洋と西洋の概念や習慣の違いとして、キリスト教に基づく騎士道に係る美徳の1つともされるレディーファーストに関して綴ります。

 レオン・ゴーティエ『騎士道』によれば、騎士の祈りとして「マグダラのマリア」、崇敬として「聖母マリア」、規範として「寡婦や孤児という弱き者を守る」こと、名誉として「未婚と既婚とを問わず婦女子を敬いすべての屈辱から守る」こと、また騎士叙任式の方法の1つとして女性が叙任することなど、レディーファーストの起源は定かではない都市伝説も含め多数あると言われます。

 春山の『エチケットの文化史』では、1230年にラウル・ド・ウーデンクが著した「勇気の翼」という詩からの騎士の心得が挙げられています。女性と孤児を助けることと共に、女性を尊敬することを説いたこの詩では、14条の心得の後半7カ条として、レディーファーストにつながるとされる「愛の奉仕」、いわゆるコートリーラブ(宮廷愛)「大邸宅の女主人である奥方への愛」の項目があります。内容は、奉仕する邸宅の貴婦人への献身であり、そこには様式化された様々な恋愛の規範が含まれます。

 今回は起源説には深く触れませんが、プロトコールの基本的な考え方を論じる日本の外務省関連の書籍でも、1980年代から2000年代初頭頃までは、その原則の一つとしてLady on the right(女性を男性の右側つまり上位の席に置くこと)、またプロトコール関連の個人出版物では、レディーファーストの言葉自体が項目として挙げられていました。現在では、平等意識の高い国々では取り立てて言及されなかったり、ジェンダ―平等かつダイバーシティの考え方として、「~ファースト」という言葉の使い方にも思慮が必要になってきているようです。

 Oxford Dictionary of English (Third Edition)や新英和大辞典(第6版)では、英語としてのlady firstの立項は見当りませんが、日本国語大辞典(第2版)では「女性を尊重して優先させる欧米の習慣」として立項されています。日本での初出は、1930年のアルス新語辞典の引用で「―(略)あれは婦人に一目置くといふよりも同等に取扱ふ、即ち婦人の個性を認めて尊敬するといふやうな意」とあります。次に1955年、井上友一郎の「銀座二十四帖」から「恋する男は自然にレディ・ファーストの精神に合致する」が引かれています。昭和30年2月27日発行、週刊朝日連載小説「銀座二十四帖」井上の原文では、この言葉の前に「桃山は中型のトヨペットを呼び止め、先ず和歌子を乗せ、あとから自分が悠然と乗り込んだ」とあり、女性をクルマに優先的に乗せる行為に対する言葉として「レディ・ファースト」が使われています。

 西洋では、キリスト教による騎士道の規律からの起源や、習慣としてのレディーファーストが歴史上でつながっていますが、同様の概念のない日本では、レディーファーストは明治維新以降の輸入文化でもあり、それに呼応した欧米式の言葉や行動は、戦後10年を経てようやく小説の文言として受け入れられたということかもしれません。

 次回からは、16世紀にイタリアで著された『ガラテーオ』から、多くの国に翻訳され印刷物としても発信された「よいたしなみ」に関して紐解いていきます。

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