⑫創作落語「SDGs」
いつもこのページで適当な随筆を書いているこの男、還暦の誕生日の夜に、一人寂しくちょいとビールを飲みすぎて、机に座ったまま寝落ちしちまいやがった。
気がついたのは、時代劇で良く見る、町奉行の中、地べたに座り、北か南か、金さんか越前様か、何もわからないまま、おまけに家内まで付き添いやがって、詮議が始まります。
町奉行「これより、彦兵衛に対して詮議をいたす。おもてを上げい。さて、その方、せとうち観光専門職短期大学の教員でもないにもかかわらず、毎回堂々と観光WEB講義を執筆し、いい気になっていると聞くが、さよう相違ないか。」
彦兵衛「さよう相違ない。」
彦兵衛の家内「これ、これ、お前さん。あんたも元役人だからって、偉そうに言うんじゃないよ。打ち首になっちゃうよ。こんな時は、さように相違ございませんって、へりくだって言うんだよ。すみませんね、お奉行様。今のは無かったことにして、もう一回聞いてやっていただけませんでしょうか。」
町奉行「んん・・・、ならば彦兵衛もう一度尋ねる。さよう相違ないか。」
彦兵衛「はい、お奉行様。私は教員でなく、適当な文章を書いていることには相違ございませんが、いい気になっているかどうかは自分ではわかりません。教員の皆さまに聞いてみてください。」
町奉行「そうか、まあよい。いずれにしても、今日は、令和の日本の状況について尋ねたくてお前たちを呼び出したのじゃ。ちゃんと教えてくれたら許してやるぞ。さもなくば、打ち首じゃ。わかったな。さっそくだが、彦兵衛、エスディージーズを知っておるか。」
彦兵衛「エスデージーンズ?そんなの令和の日本にございません。流行っているのはユニクロのジーンズです。綾瀬はるかと桑田佳祐が地下鉄の中で売ってんですけどね。」
彦兵衛の家内「うそつくんじゃないよ。」
町奉行「ジーンズではない。エスディージーズじゃ、持続可能ななんとかと聞いた。何やら持続可能という言葉が流行語大賞を取ったとも聞くが。」
彦兵衛「あ~あ~それですかい。それなら知ってますよ。正確には、SDGsのことです。持続可能な開発目標と言います。流行語大賞は、ちと違うと思いますけど・・・。」
町奉行「どいうことだ。詳しく申してみよ。」
彦兵衛「SDGsとは、SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALSの略称で、日本語では、持続可能な開発目標と言います。2015年の国連サミットにおいて、すべての加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジャンダ」の中に掲げられたもので、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」持続可能でよりよい社会の実現を目指すという世界の共通目標です。日本だけではないのです。お奉行様。」
町奉行「日本だけではないのか。具体的には、どのような目標か申してみよ。」
彦兵衛「その目標は、2030年を達成年限とし、17のゴールと169のターゲットから構成されておりやす。1.貧困をなくそう2.飢餓をゼロに3.すべての人に健康と福祉を4.質の高い教育をみんなに5.ジェンダー平等を実現しよう6.安全な水とトイレを世界中に7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに8.働きがいも経済成長も9.産業と技術革新の基盤をつくろう10.人や国の不平等をなくそう11.住み続けられるまちづくりを12.つくる責任つかう責任13.気候変動に具体的な対策を14.海の豊かさを守ろう15.陸の豊かさを守ろう16.平和と公正をすべての人に17.パートナーシップで目標を達成しようでさぁ。169のターゲット・・。」
町奉行「彦兵衛ちょっと待て。あまり長いと記録が追いつかん。」
彦兵衛「お奉行様、大丈夫でございます。あとでホームページにあげておきますので、ゆっくりとご覧ください。」
町奉行「わかった、続けよ。」
彦兵衛「169のターゲットの中に観光に関するものが3つあります。それは次のとおりです。
8.9 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。
11.4 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。
12.b 雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する。」
町奉行「世界の目標と言うが、国によってそれぞれ事情が異なるのではないか。」
彦兵衛「さすがお奉行様だ。行政にも通じてらっしゃる。なもんで、日本政府は、日本が取り組むべき8つの実施指針を定め、重点的に関連施策を推進しているのです。
(People 人間)
1 あらゆる人々の活躍の推進
2 健康・長寿の達成
(Prosperity 繁栄)
3 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
4 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
(Planet 地球)
5 省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会
6 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
(Peace 平和)
7 平和と安全・安心社会の実現
(Partnership パートナーシップ)
8 SDGs実施推進の体制と手段、 って具合でさぁ。」
町奉行「しかし政府がやるだけでは、民(たみ)に何の関係も恩恵もないのではないか。」
彦兵衛「この取り組みの特色は参画型と申しまして、脆弱な立場におかれた人々を含む一人ひとりが、施策の対象として取り残されないことを確保するだけでなく、自らが当事者として主体的に参加し、持続可能な社会の実現に貢献できるよう、あらゆるステークホルダーや当事者の参画を重視し、全員参加型で取り組むことが特色となっているんでさぁ。」
町奉行「ステーキホール?なんだ、それは。欧米の焼き肉屋か。」
彦兵衛「ステーキじゃありません。あっしも最近ご無沙汰なので、食べてみたいですが、そうではなくステークホルダー。具体的にはNPO・NGO、民間企業、消費者、地方自治体、科学者コミュニティ、労働組合がそれに当たります。」
町奉行「ほう、それで計画は順調に進んでおるのか。」
彦兵衛「それがですぁ~、困ったことに2019年9月開催された「SDGサミット」で、グレーテス国連事務総長は、SDGsの進捗に危機感を表明し、2020年~2030年を『行動の10年』とする必要があると述べました。また、2020年新型コロナウイルス感染症が瞬く間に地球規模に拡大したことからも明らかなように、グローバル化が進展した現代においては、国境を越えて影響を及ぼす課題に、より一層国際社会が団結して取り組む必要があると日本政府も危機感を募らせています。」
町奉行「行動の10年に突入した今、一人ひとりにできることをしっかりと考えて、一歩踏み出す姿勢が必要みたいじゃのう。」
彦兵衛「さすが、お奉行様。わかってらっしゃる。」
町奉行「よくわかった。これに免じて、彦兵衛を無罪放免とする。ただし、また呼ぶこともあるかもしれぬ。その時はよろしくな。」
彦兵衛「お奉行様、ありがとうございます。」
彦兵衛の家内「ありがとうございます~。良かったね、お前さん。こんなところで打ち首にされたら、生命保険が出ないもんね。」
町奉行「これにて、一件落着。ところで、彦兵衛、観光と文化財というテーマで随筆を書いていい気になっているようだが、最近、あまり文化財が登場せぬがいかがした。ついにネタが尽きたか。」
彦兵衛「いえいえ、お奉行様、そうではございません。文化財だけに、ちゃ~んと保存してございます。」